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『度胸づけ訓練』

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  • 投稿日:2025/8/9
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物語とダンスムービーを作りました!ダンス部に新しく入った部員が、度胸づけ訓練のために校内ゲリラライブをするというお話です。動画は以下にて公開しています!高画質版(2560×1440)https://www.patreon.com/posts/135740697キャラ差分×4https://www.patreon.com/posts/135741028ーーーーーーー ストーリー ーーーーーーー『度胸づけ訓練』憧れていたダンス部に入部して一か月。彩希は戸惑っていた。――私は、まだ覚悟が足りなかった。先輩たちは本当に、裸で踊っていた。下着を脱いで、ためらいなく全力で踊る。だけど私は――まだこの体操服を着てられることに、安心してしまってる。体育の時間、「ダサくて嫌い」と言っていたのに。火曜日の練習あとだった。智代ちゃんと動きの確認をしているとき、遥部長から声をかけられた。「彩希ちゃん、そろそろ“度胸づけ訓練”の時期だね。」その話がはじまるとまわりの先輩たちが、きゅっと口元をひきしめる。――ああ、やっぱり本当なんだ。その空気で理解した。『度胸づけ訓練』それは新入部員が、告知なく校内のどこかに立ち、決められたダンスを披露する伝統行事。しかも、何も着けずに――そのときはパンツ一枚身に着けることが許されない。心臓の音が早くなる。なにか声を出そうにも、口が動かない。不安と、恥ずかしさと、混ぜこぜの何かが喉につかえる。遥部長は、優しく話した。「大丈夫。みんな超えてきた道なんだから。」――そうだった。私はこのことを知っていても入部したんだ。……だから、逃げるのは違う。恥ずかしいのなら、それは、乗り越えるためのハードルなんだ。放課後の校舎は静かだけど、まだ生徒は残っている。階段の陰、ちょっと開いたドアの向こう。どこかに誰かの気配がある。そんな見えない誰かの気配が、わたしを怯えさせる。制服を着ていないだけで、学校は別世界のように見えた。指定された場所は旧校舎の角の廊下。入学式のとき以外、あまり使わない廊下だ。遥部長が笑顔で私に手を振る。私は、震える指でパーカーの裾をつかんだ。「おねがいします。」遥先輩にパーカーを手渡す。廊下の冷えた空気が私の足元を通り抜ける。「音楽がはじまったら、私は帰っちゃうからね。」練習場でもそう言われた。いざとなると不安に押しつぶされそうになる。――こんなところに裸で一人いるなんて……。「彩希ちゃんならきっと大丈夫。」先輩は私のプラカードの位置をなおしながら言う。……先輩も、これをこえてきたんだ。どうかこのまま、誰もきませんように。心臓の音が大きくなるのがわかる。――もう、やるしかない。音楽が流れはじめる。音楽が流れ出すと、おそれていたとおり、やっぱり誰かが様子を見に来る。誰か人が来ても、私はダンスをやめることは出来ない。わたしは誰の顔も見ないようにした。必死に音楽と振付のことだけを考える。――誰かと目があったら、絶対動けなくなる。その恐怖だけが、どうにか私の身体を次に動かす。――このポーズ、すごい恰好になってるかも。だけど、気にしてる余裕なんてない。"何も感じるな!考えるな!"そう自分に言い聞かせて私はダンスを続ける。3分間が終わり音楽がフェードアウトする。部活では静寂があるはずの時間、代わりに耳に届いたのは、ざわざわとした人の声。「なにこれ……」「全裸じゃん」ざわつきが、だんだんはっきりしてくる。わたしの頭が言葉を理解しはじめた。「え、藤本さん……?」その中に知っている声を拾ってしまう。……あの声は、同じ班の早川くん。背中に冷たい汗が流れる。動悸が早くなる。声の方向を向くことができない。……無駄だとわかっていても私は顔をそらそうとする。どうしようもなくうつむいた視線の先、手洗い台のステンレスの板にわたしの姿が映っている。――だらしなく全部をさらけ出して、競売の動物みたいなプラカードを首から下げている。――なにこれ。変態じゃん。その瞬間、押し殺していた羞恥心が急に戻ってきた。今更のように、体を手で隠す。「どうして……。え、いじめ……?……まってて。今先生呼んでくるから。」気づいたときには、彼を押しのけて走り出していた。集まった人の間を無理やりかき分ける。とにかく逃げなきゃ。――でもどこへ?部室は3年生の教室を超えて向こうの校舎だ。なるべく人がいない廊下を走るつもりが、かえって人の数が増えてくる。裸で走る私を見て、上級生が驚いている。私の全身を恥ずかしさと惨めさが支配する。――どしんふいに人に当たり弾き飛ばされる。焦って前を見ていなかった。わたしは大きく倒れこむ。なんでこんなときに限って。急いで立ち上がろうとしたそのとき……――「うわっ、変態じゃん。」ぶつかった野球部の子の声が降ってきた。その声に悪気はないのは分かっている。でもだからこそ、その一言がかろうじて持ち堪えていた私の心を完全に打ち砕く。「う~。もう……もうやだ~。もう裸見られたくない……。」こんなに人がいる場所なのに、涙があふれてきて動けない。選んだはずだった。納得したはずだった。でもただただ後悔だけがあふれてくる。――わたしの体は、こんな風に適当に晒されるものじゃない。――明日から、どんな顔して学校に来よう。苦しいことばかりで頭がいっぱいになる。「……どうして」――私の声は、どこにも届かずに消えていった。